hamedori_1806_008s
「淫獣」木村の話。

 もしかしたら襲われる?と覚悟して俯いたまま逃げることもできず、木村の前で身体を
硬直させていたぼくですが、木村はその僕の前をさっとすり抜けるように自分から動い
て脱衣室の中へ入り込み、突き当りの便所に入って行きました。

 予想外の木村の動きに、僕はただ唖然として足を止めたままにしていたのですが、ハ
ッと我に返りそのまま自分の室に足早に戻ったのです。

 室に戻りベッドの上でトランクスとTシャツに着替えても、僕の胸の鼓動は高まったまま
でした。

 後日に分かったことですが、木村は就寝時には素っ裸で寝る習性とのことでした。

 その時はしかし僕は当然知らなかったので、木村の裸身をいきなり見せられて只々驚
き唖然とするばかりで、この目がしっかりと捉えた木村の下腹部のものが今も鮮明に脳
裏に焼き付いていました。

 下腹部の黒い剛毛からだらりと突き出て垂れ下がっていたそのものは、今思い返しても
異常なくらいの長さでした。

 まるで川の草の藻から頭を出しあたりを窺う太い鰻のような長さでした。


 そのもののグロテスクな残像はベッドに潜り込んでからも、いつまでも頭にこびりついて
消し去ることはできず、僕にはそれこそ寝つけぬ長い夜になりました。

 その内きっと自分は木村にどうにかされる!という自分自身でも意味不明な恐怖感がずっ
とわだかまりのように胸の中に残っていました。

 男の自分が男の木村にどうして恐怖心を抱くのかが、その時にはまだ僕にはよく理解で
きないでいました。

 恐怖心といっても暴力的なそれではなく、何か身体の奥底のほうから、まるで黒く表面の
焦げた溶岩が沸々と湧いてくる感じで、今の自分では上手く表現できないような感覚に僕
は陥ってしまっていたようです。

 いずれにしても木村という母が連れ込んできた男は、僕には相当な危険人物であるという
ことは頭の中にしっかりとインプットされたのです。

 極力、木村との接触は避けるべきで、自分の気持ちをしっかり持とうと僕は改めて肝に銘じ、
朝方近くにどうにか眠りにつけたのでした。

 それからさらに日は過ぎ、やがて母がいっていた一か月くらいという期限の前後でしたが、
木村のほうに一向にここを出て行くような気配がありませんでした。

 そのことを一度、母と二人きりの時にそれとなく尋ねたのですが、ごめんなさい、もう少し待
ってあげて、と母はまた申し訳なさげに頭を息子に下げるだけでした。

 僕は僕なりに木村との接触は意識的に避けるように努力し、故意的にこれまであまりする
ことのなかった夜遊びめいたことに精を出したりしていました。

 木村が同居して二ヶ月目に入った第一週くらいの、雨の降る平日でした。

 その日は会社に出勤する前くらいから、僕の体調が変な感じになっていました。

 雨でもそれほど寒い気候でもないのに、ひどい寒気に襲われていました。

 その前夜、パソコンのゲームについムキになってしまい、午前三時頃まで夜更かしをしてし
まったので、気分が悪いのはそのせいだろうとタカを括って出社したのですが、時間が過ぎる
ほど立っていられないようなふらついた気分になり、同僚からも気を遣われて、体温を計ると
三十八度近くの熱だったので、上司にそのことをいって僕は昼前に早退して家に帰りました。

 平日のことで母も姉も、そしてあの木村も仕事に出かけているはずでした。

 高熱で気分はフラフラでしたが、常備薬の風邪薬を飲んで一晩寝ればという気持ちで、僕は
玄関のドアを開けました。

 狭い玄関口の土間に目を落とした時、ないはずの靴が二足乱雑に置いてあることに僕は気
づき、思わず口に手を当てて息を潜めました。

 一足は派手な赤い靴紐のウオーキングシューズで、これは間違いなく木村が普段履いている
靴でした。

 もう一つは女性物で姉がいつも履いている黒靴でした。

 奇妙な靴の取り合わせに、僕は息を潜めたまま頭をかしげました。

 どういうことなのか?高熱のせいもあってか、僕は即座に状況が呑み込みませんでした。

 木村も姉の優子も、間違いなく朝は仕事に出たはずです。

 玄関の上り口のすぐ左側が姉の室です。

 片引きの戸は閉っています。

 玄関ドアを音を立てぬよう僕は静かに閉めて、例によって忍び足で姉の室の前に立ちました。

 と、室の中から何か物音が聴こえ、姉が中にいそうな気配がありました。

 ベッドのスプリングが軋むような音が聴こえたかと思うと、驚きの声が薄い戸を通して僕の耳を
貫いてきました。

 「ふふん、その恰好はまさしく白豚だな、お前」
 と吐き捨てるような口調の声は、間違いなく木村のややハスキーがかった声でした。

 姉の室の戸の前で、僕はまた固まってしまい動けなくなっいました。

 息を小さく吐いて僕は全身を硬直させたまま、戸の向こう側に全神経を注ぎました。

 「・・そ、そうです・・わ、私は醜い白豚です・・あぁっ」
 と姉の上ずったような、これまで無論聴いたことのない響きの生々しい女の声が聴こえました。

 「どうだ?白豚が縄で縛られて、そんなに嬉しいか?」
 「あぁっ・・は、はい・・あ、あなたに縛られて・・幸せです」
 「ふふん、母娘揃って縄好きだな。

しかもオメコからこんなに汁垂らしやがって。

体型は違っても、
マゾの性分は親譲りだな」
 「あぁ・・も、もっと虐めてください」
 「何だお前、ションベンちびってるんじゃねぇのか?オメコからどんどん汁が溢れ出てるぜ」
 「あぁ・・ご、ご主人様・・・もっと・・もっと優子を辱めて!」
 聴くに堪えないような卑猥な言葉のやり取りが、切れ間なく僕の耳を襲ってきていました。

 一体何がどうなっているのかもまだよく呑み込めていない僕でしたが、木村と姉の卑猥極まりな
い会話のやり取りを聴いて、事のあらましが否応なしに頭の中に構成されていきました。

 姉の室にいるはずのない木村がいて、姉は裸にされベッドの上かで縄か何かで縛られている。

 姉を裸にし拘束したのは木村に違いない。

 恥ずかしい恰好で拘束された姉からは拒絶や抗いの言葉は一つもない。

 木村が姉を罵り、姉は恥ずかしい姿態を曝け出していることに恍惚の表情を浮かべている。

 およそ僕の思考では考えもつかない情景でした。

 姉とまさか木村の取り合わせは、僕の思考回路には全くなかったことでした。

 姉もおそらくは、唐突な同居人である木村に対してはいい印象は持っていなかったはずです。

 ある時、姉がぽつりと、
 「何か、あの人薄気味悪いよね・・」
 と僕に顔をしかめながらいっていたのです。

 その姉がどうして?と考えようとするのですが、こんな場所で息を殺すようにして立ち竦んだまま
での深い思考は僕にはできませんでした。

 パチンパチンと何か平たいもので身体を叩くような音が聴こえてきました。

 その音と並行するように、姉の短い呻き声が聴こえます。

 叩いているのが木村だというのがわかりました。

 高熱でふらついて帰宅した僕は、もうその場に立っていることができなくなってきて、そろりとした
忍び足で短い廊下を進み、どうにか自分の室まで辿り着き中へ入りました。

 静かに倒れ込むようにベッドに身を沈め、大きな息を二度三度天井に向けて吐きました。

 すぐに木村と姉の卑猥な会話のやり取りが頭に浮かんできました。

 今日のいつから二人があの室にいたのかわかりませんでしたが、少なくとも僕の帰宅よりも、あ
の会話の流れや状況からして、かなり早い刻限から二人は室にいたような気がしました。

 あの下卑た会話のやり取りは、明らかに男女の性交の時の声です。

 しかも姉の喉奥から振り絞るような高い声音は、木村という男への拒絶や抗いの響きは一切なく、
寧ろ一人の女として身も心も男に迎合し、ひれ伏しきっているのが明白でした。

 姉が木村に向かって、ご主人様と哀願的な声で呼んでいることで、二人の関係は昨日今日の間
柄ではないということにも僕は気づきました。

 狭い家の中でしたが、僕の知らないところで木村の毒牙の矛先は、あろうことか姉のほうに向けら
れていたのです。

 自分の見識の甘さと独りよがりだった思いを、僕はつくづく身に染みて感じました。

 以前にこの家の中で木村と二人きりの時、冷蔵庫の前で図らずも出くわし、一瞬だけ垣間見た彼
の獲物を狙う豹のような鋭い眼光と、違う日の深夜、脱衣室の前で全裸の木村と遭遇した時の衝撃
的な驚きから、僕自身は男でありながら、何故か背筋の寒くなるような恐怖心を抱き、それからはた
だ自分自身の保身だけを考えていました。

 木村の愛人である母は最早仕方ないにしても、まさか木村が姉の優子のほうに毒矢の矢先を向け
るとは・・・自分の迂闊さに声も出ないというのは正しくこのことでした。

 今しがた耳にしたおぞましいあの場面で、僕は姉を助けに行くべきだったのか?眼光鋭い木村に飛
びかかってでも姉を救うのが弟の役目だったのか?僕の頭の中で思考が右往左往していました。

 言い訳めいていえば、果たしてあの室のあの状況で姉は窮地の気持ちでいるのかという疑問もあり
ました。

 木村と姉の漏れ聴こえた声から類推すると、姉はおそらく木村の前で拘束状態にされて恥ずかしい
姿を曝しているようです。

 しかも姉はそのことで木村を詰るような言葉は一言も発しておらず、寧ろ真逆に恥ずかしい姿態を
見られている木村に媚びおもねくように、息も絶え絶えに熱く昂まった声を上げ続けていたのです。

 姉の女として溺れ尽くした淫らな喘ぎ声を聴いたのは、無論僕には初めてのことです。

 普段の姉は弟の前ではのほほんとした雰囲気しか見せておらず、姉ちゃんは女の色気足りないんじ
ゃねぇの?などと何度か僕も冷やかしたりしていたのです。

 そんな姉が僕の全く知らないところで、おそらく時期ももっと早くに木村の毒牙の洗礼を受けていたの
は、今しがたの二人の卑猥な会話のやり取りから、間違いのない事実のようでした。

 姉の優子も肌は母親似で白く、体型はどちらかというとポッチャリ型でしたが、弟の僕から見ても愛嬌
はそれなりにあり、三十歳という実年齢よりは外見的には若く見えました。

 性格は僕と似たような感じで、何事でも自分から前に出るということはなく、それでありながら大体の
物事はそつなくこなすのですが、人でも物でも自分の興味のあること以外には関心を示さない、という
のが僕自身の性格で、姉もほとんどそれに近い感じでした。

 三十になっても結婚のけの字も伺わせないことや、男性経験などについては、弟の与り知らぬことで
すが、少なくとも木村のような男を好きになることは、僕には到底考えられないことです。

 おそらく姉はどこかで木村に襲われ強引に犯されたか、あるいは狡猾な姦計に嵌められて身体を汚さ
れ、それからは木村の手管と術中に屈服させられているのに違いないと、僕はそう思いました。

 姉の悲鳴のような声がこの室にまでかすかに聴こえてきていました。

 僕は自分の体調不良も忘れ、ベッドにスーツ姿のまま仰向けになってただ天井を見上げていました。

 何をどうすればいいのかがわからずにいました。

 茫然自失の気持ちでいながらも、僕の耳はここまで断片的ながら、かすかに聴こえてくる姉の声を追
い求めていました。

 「ああっ・・・ご、ご主人様っ・・・いいっ・・いいです」
 「も、もっと・・くださいっ!」
 「ゆ、優子の・・・オ、オメコッ!」
 夜の時の母の声と瓜二つの声でした。

 ベッドの上で仰向けになった自分の下半身のあたりが、何かむず痒くなってきていました。

 僕の片方の手が勝手に股間に伸びていました。

 ズボンの下で僕のものが勃起し始めているのがわかりました。

 淫らな夢想が僕の頭の中を駆け巡ります。

 ベッドの上で裸で縛られたままの姉が剥き出しの臀部を高く上げている。

 姉の剥き出しの真っ白い臀部の前で、素っ裸の木村が膝立ちをして異様なくらいの長さの下腹部のも
のを突き立てている。

 ベッドに顔を伏せた姉の口から雌の獣が呻くような声が漏れ続ける。

 木村が姉の身体の中に長いものを容赦なく突き刺している。

 征服感に酔い痴れたように満足げにほくそ笑む木村の浅黒い顔。

 贅肉のない胸や腰回り。

 固く引き締まった男の臀部。

 不思議なことに僕の頭に浮かぶのは、姉の淫らな裸身ではなく、何故か木村の身体と顔ばかりでした。

 僕の下腹部に伸びた手がズボンのベルトを外しにかかっていました。

 腰を動かせてズボンを足首あたりまで下げる僕。

 トランクスの上からすでにいきり立つくらい固く勃起したものをなぞります。

 手がすぐにトランクスの中に入り、勃起したものを強く握り締めます。

 木村の顔がふいに僕の目の前に浮かびました。

 「あぁっ・・」
 と思わず僕の口から声が漏れます。

 嫌いなはずの木村に自分が犯されていることを想像しました。

 男に犯される想像は生まれて初めての経験でした。

 どこを犯される?
 自問自答する自分がいます。

 お尻・・。

 でも・・僕には経験がない。

 男が男を犯すのはお尻しかない。

 ・・犯してほしいっ!
 木村の蛇のように長いものが頭に浮かびます。

 今正しく姉の臀部を激しく突き刺しているものです。

 あぁ・・・そ、それがほしいっ!
 僕の体内の血が一気に沸騰する感じがありました。

沸騰した血が逆流して身体の一点に集中しようとします。

 ああっ・・いけないっ!
 心の中で叫んだ時には、時すでに遅しでした。

 固く勃起した下腹部のものの先端から、ドクドクとした体液が溢れ出るのがわかりました。

 それを覆っていたトランクスの生地が、忽ちにして濡れそぼりました。

 慌てて僕は上体を起こし、濡れそぼったトランクスを脱ぎました。

 自分の姉がすぐ近くで陵辱を受けているのに、自分は一体何をしているのだ?という自己嫌悪がすぐ
に湧き上がりました。

 濡れたトランクスで下腹部の周囲を拭き取りながら、僕は自身の不甲斐なさを只々詰り責めました。

 それでも僕の頭の隅からは、木村という男の顔と身体の記憶は消えることはありませんでした。

 この家族は一体どうなっていくのだろうか?
 スーツの上着やカッターシャツも脱ぎ下着も穿き替え、部屋着に着替えてベッドに仰向けになった時、
僕は漠然とそんなことを考えていました。

 一人の男の出現によって一つの普通の家族が、まだ二ヶ月も過ぎない間に、人間としてまた男と女とし
て何か音を立てて崩壊していくような感じがしていました。

 そんな悪魔のような男を連れ込んできた母の責任は、確かに重い気はします。

 いずれそのことで母を責め詰ることはあるのだろうとは思いますが、母一人を責め詰ったところで、もう
事態は解決できない寸前にまで来ているのです。

 のほほんとした無垢な表情しか思い浮かばない姉が、木村という男によって生々しく女というものを開花
させられ、はしたなく淫らにのたうち廻っているのです。

 男を連れ込んできた母にしてからがそうです。

 息子の僕から見ても美人で聡明で、離婚してからは家族のために一生懸命な母でした。

 口にして母を褒めることはありませんでしたが、理知的で理性心もそれなりに備えていたはずの母でした。

 それがあの夜の、息子に聴かれるのもかまわずに女になりきったように、熱く激しく身悶えの声を上げ続
けるのです。

 そして木村の照準は、僕の思い過ごしというのでは断じてなく、間違いなく男の僕の身体にも向けられてい
ます。

 きっとそう遠くない日に、僕は男として木村という淫獣のような男に犯されると思います。

 今の僕に木村に抵抗できる自信は毛頭ありません。

 木村のことを薄気味悪くて怖い男と思っていても、僕自身の心の裏側のほうで、その男に男として抱かれる
ことをかすかにでも望んでいる自分がいるということがわかっているのです。

 男が男を好きになる。

 そのこと自体を僕は中学生あたりの頃から、それこそ漠然とですが何気に理解できるような気がずっとして
いました。

 男同士のセックスについてまで深く掘り下げて考えたことはさすがにありませんでしたが、男同士がキスする
場面をビデオか映画で観た時には、正直少し以上に胸が昂まったこともあります。

 そんな僕が具体的に男を意識したのは、多分、この木村が初めてのことです。

 最初の対面の時、正直にいって僕は木村の視線を目だけでなく、身体全身で衝撃として受けていたのです。

 この家族はきっと遠くない日に崩壊する。

 そう漠然と思いながら、ベッドの上で僕はいつの間にか目を閉じていったのです。

 どれくらい眠っていたのかわかりませんでした。

 何かの物音で僕は目を覚ましました。

 僕の室のドアを叩くノックの音でした。

 「雄ちゃん・・?・・いる?」
 ノックと一緒に聴こえたのは姉の優子の声でした。

 窓を見るといつの間にか雨が止んでいて、明るい陽が差していました。

 姉がどうしてこの室へ?
 寝起きで状況がまだはっきりしていなかった僕でしたが、声が姉だとわかって、
 「何・・?」
 と寝惚けた声で返事しました。

 「うん・・ちょっと・・いい?」
 妙に気恥ずかしそうな姉の声でしたが、木村ではないことに一先ず安心して、
 「いいよ」
 と軽い声で応えました。

 姉はいつもの部屋着姿で、Tシャツに短パンでした。

 「あ、あのね・・雄ちゃんに・・・は、話しておかなければって思って」
 途切れ途切れの声でいいにくそうに姉が口を開いたのは、室に入ってしばらくしてからでした。

 「ん?・・・何?」
 「ゆ、雄ちゃん・・・もう聴いてたんでしょ?・・わ、私の恥ずかしい声」
 「あ・・あぁ・・お、驚いたよ」
 「うん・・そうなの。

私・・あの人とそういう関係なの」
 「・・・そうなんだ」
 「雄ちゃんにずっと内緒にしてて・・・ごめんね」
 「あ・・ああ、いいよ、そんなこと。

い、いいにくいことだしね」
 「私は雄ちゃんが帰ってきたことは知らなかったんだけど・・あ、あの人に教えられて」
 「そうなんだ・・」
 木村は僕の帰宅に気づいていたようです。

 「木村は・・?」
 「一時間ほど前に仕事に出かけたわ。

夕方から遠方配送があるみたいで」
 「姉ちゃん、木村とは・・いつからなの?」
 「・・彼がここに来て、二週間ぐらい・・かな」
 「そんなに・・・」
 早くから?という次の言葉が出ないくらいに、僕は内心で驚いていました。

 木村は無論そうですが、姉も今日の今日までそんなことは僕の前ではおくびにもだすことなく、普通に言葉
をかけ合ったりしていたのです。

 何も知らないでいた自分自身の迂闊さを僕は悔やみ、同時に僕は姉の優子の精神力の凄さにも少し感嘆
していました。

 姉からの生々しい告白はそれから一時間以上長く続きました。