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僕の名前は、山田さとる言う。

18歳の、地味でうだつのあがらない高校3年生である。


高校生の3年間と言えば、世間一般的には青春を謳歌することのできる、人生の中のかけがえのない時間と考えられているのだろう。


しかし、そんな考えは全くと言ってよいほど現実的ではない。


青春を謳歌する者の裏には、少なからず泣きを見る者が存在する。


そして、残念ながら、僕という人間は自他共に認める後者側の泣きを見る方の人間である。


思い返しても、本当にこれまでの高校生活、僕は、誰がどう見ても青春を送っているとは言えない日々を過ごしてきた。


正直、青春なんてなくていいじゃないか、平凡な学生生活を送れていることが
後に青春だと気づく時が来る、などと考えている人も少なからずいるだろう。


しかし、実際には僕はそのような平凡な学生生活すら送れていない。


事実、僕は日々、ゴミの様な学園生活を送っている。


ヤンキーグループの奴等に目をつけられてしまったのが、本当に運が悪く痛かった。



僕はそれまで、なんやかんやで何事にも無難に生きてきた

中学までは、友人もそれなりに周りに存在し、それなりに楽しい時間を過ごしてきた。


高校生活もそのように、なんやかんやでうまくいくのだろうと思っていた。


実際に、高校入学当初はそれなりにうまくやれていたと思う。


しかし、現実は厳しかった

クラス内に多数のグループが確率され、皆が学校生活に慣れ始めた頃

何故か、ヤンチャな奴等に僕は目をつけられてしまった。


正直、特別な理由なんかはなかったと思う。


ヤンチャグループの奴等はパシリにできる奴なら誰でもよかったのだろう。


運悪く「お前むかつく顔してんなぁ」ぐらいの感覚で
僕を含め、仲良くしてた奴数人がパシリの標的にされてしまった。


そして今も、クラスのヤンキーグループの立派なパシリ要員である。


特に僕の学校は学年が変わるごとにクラス替えがあるわけではなく
入学から卒業までのクラスが固定されているため本当に最悪である。


特にリーダー格の龍聖は本当に最低な人間だ。


今までで僕は、この龍聖にどれだけの暴力を震われただろうか。


気に入らないことがある時は僕等がストレスの捌け口。


僕自身、歯を折られたり、鼓膜を破られたこともある。

骨折させられたことだってあるし、友達には血を吐いた奴もいた。


本当に龍聖はめちゃくちゃだった。


学校のヤンキー達の中でも、特に龍聖はカツアゲや他校の生徒との喧嘩などで警察に補導されたりすることが多く、本当に問題児中の問題児であった。


もはや、大人も誰も彼とは関わりたがらない。


事実、度重なる問題行為から親からも見放され、
現在は自由気ままに独り暮らしをしているようだ。


教師達もそんな龍聖には関わりたくないのだろう、もはや大概のことは見て見ぬふり。


本当に、龍聖はやりたい放題だった。


最近では、龍聖が違うクラスのギャルを妊娠させて捨てたことが僕の記憶に印象強く残っている。


龍聖は正直最低な奴だが、容姿や肉体の整ったワイルド系のイケメンであり
学校ではギャルやバカな女などを中心にかなりモテていて、毒牙にかけられる女も数知れない。


また、龍聖についてよく知らない他校のお嬢様学校の女子なども
龍聖には一目おいている様であり、

つくづく、悪い男に、女が魅力を感じると言う理不尽さを龍聖によって実感させられる。


とにかく、僕はそのような龍聖には嫌悪感しかなく、主にこの男のせいで最悪な学生生活を送っている。


しかし僕にも光は存在する。


僕の幼馴染みであるミキだ。


ミキとは幼稚園の頃からの付き合いであり、小中高と同じ学校に通う昔からの腐れ縁だ。


ミキは明るく、スポーツが得意な、曲がったことが嫌いなしっかりとした女性だ。


正直、顔もかなり可愛い。


興味がないと断ったそうだが某大手芸能事務所ににスカウトされるぐらいの可愛さであり
目鼻立ちの整ったスラッとした長髪の綺麗系女子だ。


正直、ミキは言いたいことはポンポンと口に出してしまうタイプな為、キツイ性格の女だと勘違いされることも多いが、

実態は、誰よりも人思いの優しい女の子である。


そんなミキと僕は家が近所であり、親同士も仲が良かったため
幼い頃から一緒に遊ぶことが多かった。

今もその関係は続いており、今年の夏休みも二人で夏祭りを楽しんだ。


正直、僕はミキのことが好きだ。


そしてミキも僕に悪い感情は持っていないと思う。


客観的に見ても、僕とミキには
友達を越えた仲の良さをもっていると思う。


中学の頃もミキと僕の仲があまりにも、良いものだから

ミキが女友達から
「今日は旦那と一緒じゃないの?笑」

などと、あたかも僕とミキが夫婦のような感じでいじられているのをよく耳にした。


親たちなどからも、そのような冷やかしを良く受けた。


その度に、ミキも
「そんなんじゃないよ?」
などと返事を返すのだが

その顔は、うっすらと赤みがかっており
ミキもまんざらではなく、僕に少なからず好意をもってくれていることが見てとれた。


今もクラスは違うがlineなどで毎日の様に連絡を取り合ったり、休みの日に一緒に買いものに付き添ったりすることがあり

そのような関係が続いていた。


ミキと僕は付き合っているわけではないが、

もはや付き合うまでには
後は僕が勇気を出して告白するだけ。

ミキと僕は友達以上、恋人未満の存在であると思っていた。


お互いに彼氏彼女が今までにできたことはなく、
ミキが幾多の男達の告白を断っている事実からも

本当にそういうことだと思っていた。


正直、それなら早くミキに告白して、お付き合いを始めれば良いじゃないかと思う人も多いと思う。


しかし、僕はまだ、告白をしたくはなかった。


勇気が持てないというのもあるが

一番は、今の龍聖などにゴミのように扱われている自分ではお付き合いをするにあたり
ミキに申し訳ないという気持ちが、強かった。


正直、龍聖に反抗を示すことは、今よりも更に悲惨な目にあうことを意味するため、反抗などはとてもではないができなかった。


事実ヤンキーグループの中でも龍聖は頭ひとつ飛び抜けた存在であり、もはやこの学校に龍聖に反抗しようとする者は存在しない。


そのため、もはや高校生活中に、ミキに告白しようという気持ちは僕の心の中にはなかった。


その代わり、一生懸命勉強し、良い大学に入り
自分に真に自身を持つことができるようになった時に正々堂々ミキに告白しようと思っていた。

正直、結婚も視野に入れたお付き合いを考えているくらい僕はミキが好きだった。


とにかくこの頃は、ミキに自分の今の惨めな現状を知られない様にすることが一番の課題だった。


ミキとはクラスが離れていたため
ミキは僕がこんな悲惨な学園生活を送っていることを知らないし、僕も必死に隠していた。


こんな情けない自分をミキに知られたくないし、
もしミキがこの現実を知ってしまったら、正義感の強いミキのことだ、おそらく龍聖との接触は避けなれない。


とにかくミキをこの環境に巻き込むことだけはしたくなかった。


しかし、ある出来事をきっかけに
最悪にもミキをこの環境に巻き込んでしまうことになる。


その最悪な出来事は、ある日のささいな学校の帰り道に起こってしまった。


僕はその日はいつものように一人で家に向かい帰り道を歩いていた。


何の変哲もない帰り道だったが、突如背後から、思いっきり脇腹に激痛が走った。


すぐさま後ろを見渡すと、そこには龍聖が不敵な笑みを浮かべて立っていた。


そう龍聖に思いっきり蹴りを脇腹にお見舞いされたのだ。

僕はその場に跪いて頭からうずくまった。


そしてそんな僕を横目に
当たり前の様に僕のポケットから財布を剥ぎ取り、金を抜き取る龍聖

僕が龍聖からお金を取られるのは割とよくある光景で、
僕にはもはや、反撃の力や勇気もなく、いつもどおり黙ってうずくまりながらその場をやりすごそうとした。


しかしその日はいつもと違った。


突如
「何やってんの!!!!!!」と女性の声がする。


僕に駆け寄り
「大丈夫?サトル」と心配する聞いたことのある声

案の定、その女性はミキだった。


その光景を無視し龍聖は何事もなかったかのように僕から離れていく

しかし、それをミキは許さない。


「待ちなさい、そのお金はサトルのでしょうが!!」と龍聖に怒声をあびせる

すぐさま僕はヤバイと思い、ミキを止めに入るが
ミキは「なんでよ!!悪いのはあっちじゃない!!」と龍聖に歯向かう姿勢をやめない。


すると静かにこちらに龍聖が歩いてきてミキの正面にたった。


「今すぐ、サトルのお金を返しなさい!!」ミキの一層怒った声が聞こえる。


心なしかミキの足は少し震えている様に感じられる。


「何で?」と龍聖。


しかし、
「当たり前でしょ、人からお金盗ったらダメなこともわかんないの?!」と負けずに答えるミキ。


僕は立ち上がり、必死にそんなミキを止めに入るがミキはそれを振り払う。


「何でサトルもサトルでお金盗られて怒らないのよ!」と僕は一括されるが何も言い返せずに黙り込む。


僕は、脚を震わせながらも龍聖に対抗するミキの後ろで
何もできない自分の情けなさに本当に嫌気がさすが、それでも龍聖の前では何も言葉が出せない。


そんな僕たちを見て「てか、お前サトルの何?」と龍聖は口を開く。


ミキは一瞬考えた素振りを見せ「・・・・と、友達よ」と龍聖をにらみこむが

その後に数秒の間をおいて龍聖は
「あっそ、じゃあお前も金出せよ」と自分を睨んでくるミキに対して乱暴な言葉を投げかける。


ミキはお金を出す素振りすら見せずにずっと龍聖を睨んでいる。


痺れを切らした龍聖が
「はやくしねえと、そこのゴミをもっと痛めつけっぞコラッ」とすごんだ

その瞬間
「パシンッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」と乾いた音が響き渡る。


ミキが怒りから顔を真っ赤にして龍聖にビンタをかましていた。


そこには「あんた龍聖よね!!あんたの悪い噂は聞いてたけど本当にクズね!!!ゴミはあんたでしょ!!!!」と怒鳴り込むミキ

僕は驚いた。


あの龍聖にビンタをかまし、啖呵を切るミキにも驚いたが
それ以上に、鳩が豆鉄砲を食ったように目を丸くしてその場に固まる龍聖の姿に僕は驚いたのだ。


龍聖はすぐに表情を怒りの表情に変えミキを睨み返したが、
さっきの今まで見たことのない龍聖の表情は僕の記憶にしっかりとこびりついている。


まるで初めて親からぶたれた子供の様な表情をしていたことを覚えている。

なんだった今のはと僕が考えていると

いつのまにか
「チッ」と舌打ちをし、龍聖は僕のお金を地面に投げ捨て、苦虫を噛み潰した様な複雑な表情を残してその場を立ち去った。


僕は更に驚いた。

龍聖はミキにビンタされ、罵倒された。

それにもかかわらず龍聖は何もせずその場を立ち去った。


本来ならならミキは普通にはここに立てていないだろうし、犯されていてもおかしくない
僕もボコボコにされているはずだ。


しかし龍聖は僕らに何もせず、お金まで取らずに結果として立ち去った。


僕がそのことについてあっけにとられていうと、横からミキの鋭い視線。


「サトル、大丈夫だった?」
「恐いのはわかるけど、何で彼に何も言わないの?もしかして普段から彼に嫌な目に合わされていたんじゃないの?」とすぐさまミキが僕に声をかけてきた。


僕は「ごめん」という一言しか発することができなかった。


自分の情けなさから僕の目には涙が溢れていた。


結局その日はミキと一緒に家に帰った。


帰り道、ミキに高校に入ってから今までのことを全て洗いざらい話した。


ミキは僕の話をしっかりと聞いてくれたし、こんな僕を笑わなかった。


それどころか、
「今まで辛かったよね。

今度からは私も力になるし、サトルは何も悪くない。

悪いのは全部あいつだよ」
「何かあったらまた私がおいはらってあげるから 笑」
と本人も不安なはずであるのに、笑顔を見せ僕を慰めてくれた。


僕は自分の情けなさを悔いると同時に、ミキから嫌われなかったことに対して大きな安堵を感じた。

そしてますますミキのことが好きになった。


しかし、親にも見放され、周りからも指図されることがなくなった、誰からも何を言われることもない、やりたい放題の龍聖。


そしてそんな龍聖に悪いことを悪いことだと反抗をして戦いビンタまでしたミキ。


改めてミキのすごさを実感する一方

今日は何もなかったが今後ヤバイことが起こってしまうのではないのかと不安に怯えながら
サトルは眠りについた。


そして事実、この日の出来事がサトルとミキの人生を大きく変える出来事になる。


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あれから数日後、相変わらず
サトルはゴミのような扱いを龍聖から受け続けていた

むしろ龍聖から嫌な思いをさせられる頻度は以前よりも増えたかもしれない。


しかし、以前とは環境が少し異なるようになった。


僕が嫌がらせを受けるのは以前からの日常だが
そのたびにミキが止めに入り、
龍聖に「やめなさい!!」などと叱咤するようになった。


なぜか龍聖は「チッ」と舌打ちなどをし
素直にサトルに対する嫌がらせを止める。

そして周りの取り巻きにも嫌がらせを止めるように促す。


毎日がこの繰り返しになった。


まるで、龍聖はミキにかまってもらうためにサトルに嫌がらせをしているかのようだった。

事実、毎日、龍聖はミキに怒られている。


実際に、龍聖はミキがいないところではサトルに嫌がらせをしなくなった。


また、しだいにミキはサトルが関係していない龍聖の悪戯にも茶々を入れるようになった。

龍聖は龍聖でミキに叱られたことに関しては素直に従っているように見られた。


ミキはミキで
「あいつはどうしようもないクズだけど、一応話せばわかる奴よ。

「いずれサトルへの嫌がらせも完全に止めさせてあげるからね。

こうなったら私が更生させてやるんだから 笑」などと言ってしまう始末。


元々、ミキが正義感が強く、おせっかいで面倒見の良い性格であることは十分認識していたが
やはり相手が龍聖なだけあってヒヤヒヤしてしまう。


しかし、そういった分け隔てなく人に心でぶつかっていくことのできるところが
僕がミキの数ある好きなポイントのひとつであり、尊敬に値する部分である。


そしてもはや、ミキからは初めて龍聖と対立した時の様な震えは感じられず
完全に龍聖に対する恐怖というものがなくなった様に感じられた。


龍聖は龍聖で以前よりも確実に丸くはなっているように感じられるが
現実的に、龍聖に強くものを言える人物はいまだにミキしかいない。


以前にミキの言うことを素直に聞く龍聖の姿を見て
大丈夫なんだと同じように龍聖を叱りつけた中年の教師がいたが

その教師は龍聖にすぐさまボコボコにされかけた。


また、龍聖が丸くなったと勘違いして喧嘩をしかけてくる他校の奴などが増えたりもした様なのだが、そいつらは龍聖に瞬殺でボコボコにされたようだ。


それらの出来事もミキのおかげで騒動は鎮火したが、このことからもわかるように

龍聖は依然としてまともな人間ではない。


しかし、やはりミキの言うことは素直に聞き入れる。


また、更に最近変わったことがある。


以前からと変わらず僕は毎日のようにミキとlineなどを通じて連絡をとりあったり、休日はショッピングに付き合ったり仲良くはできているのだが、

最近、ミキは、「龍聖には本当に世話をやかされる」といった様な話ばかりするようになった。


更に、学校では、龍聖に反抗し対等な会話が行えるミキの姿に僕を含め疑問を持つ者が少なからず現れるようになった。


一部ではミキと龍聖がデキているのではないかという噂が流れたりもした。


しかしそれは現実的にないだろう。


昔からの付き合いの僕にはわかる。


何故ならミキは暴力を振るったり、女にだらしなかったりする奴を心の底から嫌悪する人間だからだ。


まさに龍聖はミキの嫌いなタイプだ。


その後、一応、噂についてミキに噂の真相を訪ねたりもしたが
ミキは
「そんなわけないじゃん笑 あんなバカと付き合うとか絶対ないから ふざけんなわら笑」
と怒られてしまった。


事実、ミキと龍聖が付き合っているなどと言う事実は存在していなかった。


なんやかんやで、それからも
僕が龍聖から嫌がらせを受け、ミキがそれを止めに入るという
日常は続いたし、龍聖は依然としてミキ以外の言葉には耳を傾けはしなかった。


ただ、龍聖の僕に対する嫌がらせは本当に軽くなったし、他の取り巻きからの嫌がらせはほぼなくなり、龍聖の個人的ないやがらせだけが残り、

加えて、それ以外にも悪戯を起こす頻度が明らかに昔に比べて減ってきていることが目に見えるようになり

客観的にも龍聖が少しずつ丸くなってきている様に感じられた。


しかし、ある日、大きな事件が起こってしまう。


龍聖が、恨みを買っていた他校の生徒にリンチされ瀕死の重症を負った。


命は何とか助かったようだが、しばらくは入院生活らしい。


正直、僕たちの卒業までに退院をすることは、ほとんど不可能らしい。


正直、学校の奴らはこのような不幸事を喜んでいる様子だった。

本当にいけないことではあるが、僕もその中のひとりである。


龍聖の取り巻きの連中ですら龍聖の重症に歓喜の声を挙げていた

そう龍聖は、その絶対的な強さと恐怖から皆から恐れられ、取り巻きを従えていただけで
実際に本当の仲間などは存在していなかった。


もはや龍聖に価値などなく、実際に龍聖のお見舞いに行く人など、誰もいなかった。

家族でさえも龍聖のお見舞いには誰も顔を出していないという噂だ。


そんなある日の夜、ミキから僕の下に一通のlineが届いた。


内容は龍聖のお見舞いに二人でいかないかとのことだった。


正直僕は嫌だった。

今まであいつのせいで僕は散々な目にあってきた。

だから絶対に行きたくなかった。


結論、断った。


ミキからは「そっか」という返事が返ってきただけだった。


ここでミキからの誘いをことわってしまったことにより、僕の人生は大きく狂うことなる..

そして翌朝、ミキはひとり龍聖の入院している病院に向かって家を飛び出した.....

ミキは今、龍聖の横たわる病室にいる。


サトルを誘ったものの
結局はここにはミキ一人で訪れることになった。


断るサトルの気持ちも十分にわかるため、サトルに対して、薄情者などといった気持ちは全く芽生えなかったが

それよりもミキは今、目の前にいる龍聖の変わりように言葉を失っていた。


ミキの目の前にいる男は間違いなく龍聖ではあるのだが
その男からは以前の様な覇気は全く感じられない。


そこには魂の抜けた屍の様な男が横たわっていた。


幸いながら龍聖の意識は
はっきりとしているようで、言葉も普通に話せる様ではあるものの、

彼は病院の先生の話にもほとんど耳を傾けず

ふさぎこんで、リハビリにも全く取り組んでいない様であった。


事実、龍聖はいまだ、お見舞いに来てくれたミキとも一言も言葉を交わしていない。


ミキが視界に入った瞬間に、一瞬驚いた顔をみせただけである。


しかし、しばらくミキの声かけにそっぽを向いていた龍聖も
そのミキのしつこさに負けたのか
とうとうその重い口を開いた。


「なんで、来たんだよ....」と龍聖は消えそうな声でつぶやいた。


数秒の沈黙の後
「あんたが、あまりにも可愛そうで滑稽に思えたからよ」
とミキは微笑んだ。


物事をはっきりと言えるミキらしい裏表のない答えであった。


その返答に、龍聖はまた、そっぽを向いてしまった。


結局その日、龍聖とミキが交わした言葉はそれだけだったが、

「本当に誰も来ないみたいね。

可愛そうでしかたがないから、また来てあげるわ。


と言って病室をてでいくミキの背後には

一筋の涙を流す龍聖がいた...。


その後も、ミキはその言葉通りに龍聖のお見舞いに足を運んでいた。


いまでは、ミキは週に一回は
龍聖の病室に姿を現す様になっていた。


龍聖は正直、以前からとまどっていた。


何故、ミキがここまで真正面から自分にぶつかってきてくれるのか。

自分に良くしてくれるのか。


龍聖は自分があらゆる人間から嫌われていることを実感している。

事実、家族からも愛想をつかされる程、あらゆる奴等をゴミのように扱いながら生きてきた。


そしてその環境に罪悪感も全く感じず、弱い奴がすべて悪いとも思っていた。


そして、取り巻きも含め、自分には誰もものを言えないし
自分の行動が全てだとも思っていた。


しかし、ミキにビンタをされたあの日から龍聖のなかで
何かがおかしくなった。


両親にもぶたれたことがない
取り巻きも自分の言うことには絶対に反対しない。

先生から怒られることもなくなった

そんな環境の中で生きていた龍聖にはあのビンタは強烈かつ新鮮な出来事だった。


特に龍聖は同年代の女からビンタされたことなどは今までになく、初めての経験だった。


何故か、その時は体が動かなかった。

普段ならそんな気持ちは微塵もわかないが

ミキにビンタをされることによって、
その時、龍聖の脳内に
幼い頃、両親に叱られた記憶が蘇った。


そして、いつもはかからない悪に対するブレーキが龍聖の脳内にかかってしまった。


それからというもの、そのような自分の変化が気持ち悪くなり、自分自身を確かめる意味も込めて

わざとミキの友達に過剰にちょっかいをかけたりするなどの悪いこともたくさんした。


すると、その度に、ミキは自分に恐れることなく、その行動を真正面から全力で叱りにきた。


そして、龍聖はそのたびに自分の心にグッとなにかが来る感覚を実感するようになる。


中学生に上がった頃ぐらいから
自分の行動に意見をしてくる奴等はいなくなった。


みんな周りはビビって自分の行動に意見を合わせてくる。

教師なども上辺だけで本気で自分を叱りはしない。

両親もこの頃には自分を見限っていた。


本当に龍聖は誰にも指図を受けることがない、横暴な生活を日々の中で送っていた。


そんな中でのミキの存在は、龍聖の中でかなり大きくなっていった。


自分と対等に接してくれるミキの存在に龍聖は心地好さを感じるようにもなっていった。


女なんて性処理をするためだけの存在だと思っていた龍聖にとって、このことははかなり大きな変化であった。


ミキのせいで丸くなっていく自分自身を龍聖自身も実感するようになったが

不思議なことに龍聖にはそのような感覚にもはや気持ち悪さを感じなくなっていた。


しかし、そんな日々の中、悪夢は起こった。


因果応報、昔ゴミの様に潰した奴等にやり返しをくらった。


正直、昔の自分なら刃物でもなんでも使って相手を何としてでも潰し返していただろう。

もしかしたら相手を殺していたかもしれない

しかし、何故か
現在の龍聖の脳は、刃物なんて使ってはいけないという認識をしてしまっていた。


そして素手で大人数の他校の奴等に勝てるわけもなく
袋にされボコボコされた。

何度も何度も金属バッドで叩かれたことを覚えている。


そして、その後も悲惨だった。


入院先では
わかってはいたが
家族をはじめ取り巻きの奴やセフレ等を含め、誰も自分の見舞いには来ない。

心配の電話一本入らない。

挙句の果てに知らないメールアドレスから「ざまーみろ」といった様な内容のメールが自分に多数届く始末。

おそらく一緒にツルンでた取り巻きの連中からだろう。


力を失った龍聖に価値はない。

多くの者が自分から離れていき
今度は自分がゴミになったことを龍聖は実感した。


この出来事は、龍聖自身に自分の今までの行動や考え、存在の虚しさなどを大きく実感させることになった。


正直、もう龍聖はいきる気力をなくして腐ってしまっていた。

死にことすらめんどくさいと思える程に。


しかし、そんなときに現れたのが
またもや、ミキだった。


龍聖は、無価値になった自分によくしてくれるミキに対して涙を流し、自分の今までの行動を本当に反省するようになった。


そして、龍聖の中で、こんな自分を見捨てずに愛情を与えてくれるミキの存在は
とてつもなく大きなものとなっていた。


龍聖だけではなく、ミキの中にも大きな変化はあった。


ミキは本当に龍聖の様な
横暴かつ女にだらしない様な男が一番嫌いだった。


龍聖の悪評は学校中にも広がっており、
ミキ自身、絶対に龍聖の様な奴とは関わりたくないとずっと思っていた。


あのときの龍聖に対するビンタも、爆発しそうな怒りからくるものだった。


その後も龍聖の悪戯には何度もミキは憤怒した。


ただ、龍聖は自分の言うことだけは次第に素直に聞くようになった。


ミキは正義感が強く、とてつもなくおせっかいな女である

そのあたりから自分なら龍聖を止められる。

自分なら龍聖を更正できるかもしれないと考えるようにミキはなっていった。


そして、ミキは気づけば龍聖のことばかり気にするようになっていた。


だが、決してミキの中には龍聖に対する恋愛感情はない。


ミキの好きな人は幼馴染みのサトルであった。


ただ、ミキはそのあふれんばかりの母性から
龍聖に対しても愛情を持つようになっていた。


ミキの嫌いなタイプは、
依然として横暴で女にだらしない様なタイプに違いはないが

自分によって変わっていく龍聖に対しての嫌悪感はしだいに薄れていった。


龍聖が重症をおって入院したことをしった時も、
本当に心配した。


龍聖がリハビリを始めるようになった時も本当に嬉しかった。


過去の自分に反省し、涙を流した龍聖の姿を見てミキ自身も涙を流した。


もはやミキの龍聖に対する嫌悪感は全くなくなっていた。


そしてミキは頻繁に龍聖のリハビリに付き添う様になった。


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サトルは最近は夜遅くまで勉学に励んでいる。

良い大学に入り、ミキに交際を申し込むために。


勉強のしすぎで体を壊してしまうこともあったが
毎日のミキとのlineがサトルの支えになっていた。


最近は、またミキから龍聖の見舞いに一緒に行こうよと誘われることが増えたが
やはり僕自身、龍聖にはいまだに大きな苦手意識があるため
勉強を理由にその都度断った。


本当に勉強をしているので嘘ではない。

とにかくサトルはミキのために頑張っていた。

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少し月日の流れたある日の週末、
ミキはその日も龍聖のリハビリに付き添っていた

龍聖もこの頃にはミキに自然な笑顔を見せるようになり
ミキもそんな龍聖の力になろうと頑張っていた。


ミキ自身、サトルと買い物に行ったりする頻度が少なくなったことに寂しさを感じていたが
今は龍聖のリハビリを手伝うことを優先してあげたかった。


というのも未だに龍聖に優しさを向ける者はミキだけであり
そんなことからミキも自分がいなきゃ龍聖はまた駄目になってしまうと考え、とにかく龍聖が
完全に更生し、元気になるまでは力になってあげなければいけない、一度乗った船からは降りたくないと考えていた。


ミキは、本当はサトルにも一緒に手伝ってもらいたいと思っていたが
龍聖とサトルの以前の関係性も知っているし、サトルが勉強に燃えていることもしっているため無理強いはしなかった。


そして、そんなこんなでその日もリハビリを終えて、ミキは龍聖を部屋のベットまで誘導するために
いつものように龍聖に肩を貸し、廊下を歩いていた。


無事に部屋まで到着し、あとは龍聖をベットにかけさせるだけ

ベッドに龍聖に腰を下ろさせようとしたところ

あろうことか、そのベットのうえに大きなカマキリが乗っかっていた。


きっと窓から入ってきて迷い込んでしまったのだろう。


別にそこまでおかしなことではない。


しかし、そこには我を忘れて慌ててしまったミキがいた。


実はミキは大の虫嫌いなのである。


気づけばミキは龍聖の腰ををベッドに着地させることに失敗し

ベッドの横にミキと龍聖の二人は倒れ込んでいた。


いつものミキならば考えられないミスだ。


「ドンッ」という鈍い音が響き渡った後

ミキが恐る恐る静かに目をあけると、なんと
龍聖がミキの下敷きになっていた。


ミキは「ゴメン!!!!」と急いで龍聖の上から降りようとするが
ミキの身体は動かない。


気づけば龍聖の両手がミキの背中にそっと回っていた。


ミキが「ちょっと、駄目っ」と何が起こっているのかもいまいちわからず
混乱して、そんな龍聖の腕から逃げようとすると

龍聖は「好きだっ。

俺、ミキのことが好きだ。

女にこんな気持ちを抱いたのは初めてなんだ
本当にミキのことが好きだ」とつぶやいた

そして龍聖はミキの背中に回した両手にギュッと優しく力を入れた。


ミキは突然のことに一層気が動転したようだったが

顔をあげると、すぐそこには真剣な表情し、ミキのことを見つめる龍聖の顔があった。


龍聖はミキに惚れてしまっていた。

自分に唯一優しさを見せてくれるミキに龍聖はしだいに惹かれていき
本当にミキのことが本気でに好きになってしまっていた。

今までのヤリ捨ててきた女たちとは違う、本当にミキのことが愛おしくて愛おしくてしかたないといった、今までにない、本当に一生をかけて守りたいと思える程の
好きといった感情を龍聖はミキに持っていた。


龍聖自身、ミキに嫌われたくない気持ちから、その感情を必死に押さえつけていたものの
今、このような状況で感情が爆発してしまったようだった。


今、ベットの横に倒れ込んだミキと龍聖の顔の距離は本当に近い位置にある。


どちらかが顔を動かせば唇が重なってしまうほどに彼らの身体は密着していた

龍聖の真剣な眼差しに吸い込まれるように、ミキの瞳はいつのまにか自然に龍聖を見つめてしまっていた。


静かなふたりだけの空間に「ドクン、ドクン」とお互いの心臓の音が鳴り響く。


すると、いつのまにか龍聖の右手がミキの頭に優しく添えられている。


ミキは龍聖のそのような行為に否定の意志をもたなかった。


ミキと龍聖はそのような状況にお互い興奮状態に陥ってしまっているのだろうか
お互いゾクゾクと肩で息をしている様にも見える。


特にミキは頬が赤く染まり、その顔はもはや色っぽい女の顔をしていた。


二人にとってこの時間は時は本当に長い時間に感じられたであろう。

この部屋の中だけは時が止まっている感覚にも近い錯覚を覚える。


しかし実際には時は止まらない

数秒後、
「チュッ.............]

と二人の唇は静かに重なり合った。


一瞬の出来事だった。


かと思うとミキと龍聖は数秒お互いの顔を見つめあった後

また、「チュッ..チュッちゅ.........]
と小刻みに唇が重なり合わせた。


そしてミキの顔はさらに赤く染まり、その色っぽさを増す。


ミキは自分で自分を信じられなくなっていた。


ミキは今でもサトルのことが好きだ。

それは嘘ではない。


しかし、ミキは何度もくる龍聖からのキスを拒むことができない。

何も無理に、力ずくでキスをされているわけではないのにだ。


自分の右手を
龍聖と自分の唇の間に挟んでしまえば簡単にキスなんか拒否できる。


しかし、それにもかかわらず、ミキはそのようなことはせず
「チュッ..ちゅ....ちゅっ........チュッ......]
と龍聖からキスを求められると素直に何度も受け入れてしまっていた。


ミキに龍聖に対する恋愛感情などはなかったはずだった。

事実、本当にミキはサトルが好きだった。


でも、今、キスを何度も求めてくる龍聖に、
ミキが嫌悪感を抱いていないことも事実である。


あんなに、昔嫌っていた、サトルのことを虐めていた、大嫌いだった、龍聖からのキスに快く応じてしまうミキが
信じたくはないが確かにそこにいた。


龍聖に、その熱い眼差しで見つめられ、身体が芯から熱く火照っているミキ。


もうミキは何も考えられなくなり
本能に身を任せているように見える。


何度も「好きだ、ミキ好きだ」
とミキは何度も龍聖から耳元で囁かれる

ミキも素直にその言葉に嬉しいと感じるようになっていった。


その後もミキと龍聖は静かな個室の病室で
お互いに見つめ合いながら
熱い接吻を何度も何度も繰り返した。

抱き合いながら、何度も、何度も...........。


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その頃サトルはというと赤本を必死に解いていた。

ミキのことを思い何問も、何問も必死に問題を解いていた。


時間を忘れるほどサトルは問題に集中していた。

気づけ勉強を開始してからだいぶと時間が経っていた。


しかしサトルはまだまだ頑張らなければならない。


ミキとお付き合いするためにもサトルは勉強をする手も休めず、ひたすら頑張っていた。

ミキと龍聖のあいだに起こってしまった出来事も知らずに............................