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□夏休みの午後 

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2年生の夏休みの午後1時。

陽菜は、学校の最上階にある用具室に呼び出された。

用具室とは名ばかりの物置で、使わなくなった机や椅子が雑然と積まれている。

薄暗い室内。

自分を呼び出した同級生の美沙樹たち3人の姿はない。

仕方なく、「用具室につきましたけど」とメールを入れてみる。

返信メールの変わりに電話が鳴った。

美沙樹からだ。

「あ、陽菜、そこで全裸になってー」
美沙樹の楽しげな声。

うしろから笑い声が重なる。

由香里と綾奈もいるに違いない。

「ここでですか?」
「そうそう。

さっさと脱ぎなよ。

わたしらが来るまでに全裸になってなかったら、洒落になんないよ?」
洒落になんないよ?は美沙樹の口癖だ。

逆らえば、ひどい目にあわせる、と言っているだと経験でわかる。

「わかりました」
陽菜は、声を震わせながら、そう答える。

「全部脱いだら、電話してきな」
そう残して、電話が切れた。

陽菜は制服を脱ぐ。

ブラウスもブラも脱ぎ、あたりをきょろきょろしながらショーツも脱いだ。

ほこりを払った机の上に、衣服を置き、
「脱ぎました」
と電話した。

「それじゃさ、近くにさ、銀色の箱みたいなカバンあんの、わかる?」
「カバン…?」
ドラマや映画で見る現金を入れるアタッシュケースを小さくしたようなものがあった。

「それにさ、脱いだもの全部入れて」
「ここに…ですか?」
「いいから、さっさとやれっつってんだろ」
はいっ、と返事をして、カバンの中に服を詰め込む。

「靴も、靴下もだから」
「え?」
「全裸っつったろ?」
美沙樹ひっどーい、とかそんな笑い声が聞こえる。

「入れたか?」
「はい」
見てるわけではないので、嘘をつくこともできたが、後から確認しにこられたら、大変なことになる。

「じゃあ、フタ閉めて」
素直にいうことを聞くしかない。

ばたん、とフタが閉まり、かちん、と金属音がした。

「まさか??」
あることに気がつき、慌ててフタを開けようとする。

開かない!
それを見透かしたように笑い声。

「まじ、閉めたの? あーあ。

やっちまったなー」
「ど…どうやったら開くの?」
声が泣き声になる。

その間もフタについたボタンを押してみたりするが、一向に開く気配はない。

「用具室から出てこいよ。

出てきたら教えてやる」
「え?」
だって、今、私、裸で…
そんな言い訳が通るようなら、最初から裸になんてさせていないだろう。

「ほら、早く出てこないと教えるのやめるよ。

ごー、よん…」
それがカウントダウンだと気づいて、陽菜はドアノブに手をかけた。

周囲をうかがうようにゆっくりと…
「いやっ」
その手が掴まれ、廊下に引きずり出された。

声に出せない悲鳴を上げて陽菜は、その場にしゃがみこむ。

それを囲むように美沙樹たちの笑い声。

でもよかった、と陽菜は、少しだけほっとした。

そこにいたのはいつもの虐めメンバー3人だけだった。

「さて、よく聞きなよ?」
美沙樹が、陽菜の髪をわしづかみにして顔を上げさせる。

「あの箱を開けるには、鍵が必要です」
それは、陽菜にもなんとなく想像できた。

「その鍵は、玄関のあんたの靴箱の中にあります」
まさか、それを…
「いってることわかるよね? あんたはそれを取りにいってこないと、服を着れません。

あと、携帯も没収。

助け呼ばれてもつまんないし」
美沙樹は、陽菜が握っていた携帯を奪い取る。

「ってか、陽菜を助けるやつなんて、いなくね?」
由香里と綾奈が笑い転げる。

「ま、そういうことで、よーい、スタート」
由香里が、しゃがんだままの陽菜の背中を押すと、陽菜はバランスを失って、ごろん、と転がった。

さらに高くなる笑い声。

「ほら、さっさといっといで」
胸と股間を隠しながら、陽菜は早足でその場を後にした。

「ケツ、丸見え~」
美沙樹たちの声に、陽菜は泣きそうになった。


この階は教室などなく、他の階より狭い。

すぐに階段をおりはじめる。

この階段は、建物の西端で、玄関は東端にある。

校舎の作りは双子の建物を3つの渡り廊下で繋いでいて、真上から見ると「日」の形をしている。

幸い、用具室と玄関は、同じ建物にあった。

単純な方法は、このまま階段を1階まで降り、まっすぐ玄関へ向かえばすむ。

だが1階は、ほとんどガラス張りに近い状態で、外から廊下が丸見えになる。

外を歩く生徒やグラウンドで練習する生徒たちに、絶対に見つかる。

しかも職員室の前を通るのだ。

教師たちにこんな姿を…虐められているところを見つかりたくない。

やはり2~4階の教室がある階を通らなければならない。

陽菜は、4階まで降りてきた。

3年生の階。

受験を控えた生徒たちのため、希望者を集めて夏期講習会が開かれている。

全部の教室を使ってるわけではないが、この廊下を歩くのは危険だ。

3階を目指す。

夏だというのに、リノリウムの床は冷たく、足の裏が痛くなってくる。

その痛みが、自分は全裸であると自覚させる。

階段の段を降りるたびに乳房が揺れ、根元に鈍い痛み。

片手で抑えて和らげる。

もう片方の手で股間を押さえる。

1週間ほど前にそられた陰毛が、中途半端にのび、ひげのようにちくちくと手のひらを刺す。

3階。

2年生はこの時間いないはず。

補習授業は午前中に終わっている。

陽菜自身がそれを受けていたから、わかる。

そのはずなのに、廊下で笑い声が聞こえた。

そっと顔だけ出してのぞく。

誰もいない。

どうやら、どこかの教室で雑談しているらしい。

ドアが開けっ放しなのだろう。

この階も、廊下を使えない。

もうひとつ降りようか、と思ったとき、足音が聞こえた。

どこ? 廊下じゃない。

足元? 下の階からだ。

どのぐらい陽菜と離れているのかわからないが、とにかくあがってきている。

話し声も聞こえる。

ひとりじゃない。

勘の鋭いクラスメイトは、陽菜が虐められていることを知っているだろうが、他の生徒たちは知らない。

そんな状態で、この姿を見られたら、ただの変態だと思われる。

陽菜は、意を決して廊下を越え、階段正面の渡り廊下に飛び込んだ。

渡り廊下は、上半分がガラス張り状態といっていいほど、窓だらけだ。

姿勢を低くして走る。

乳房やお尻が揺れる。

渡り廊下は中ほどまで行くと、ちょっとした展望スペースのような感じで、左右に広がっている。

その広がりの中に入れば、壁の陰で階段からは見えなくなる。

陽菜は、展望スペースに飛び込んだ。

近づいてくる話し声と足音。

こっちにこないで。

陽菜は膝を抱えるようにしてしゃがみこんでいる。

抱え込んだ膝に押し潰された胸の先が、じんじんと熱を持つ。

展望スペースと呼ばれるだけあって、そこは、足元までの巨大な窓になっている。

向こう側の渡り廊下に人がいたら、見られてしまうだろう。

話し声の主たちがこちらに来ないように祈りながら、視線がふと、下を向く。

中庭に何人なの生徒がいる。

お願い、見上げたりしないで。

話し声が、小さくなる。

さらに上の階に行ったのか、廊下を曲がったのか。

とにかく助かった。

普通教室がメインの建物と向かい合った双子のほうは、特殊教室がメインだ。

渡り廊下をこのまま渡って、そっちを通ったほうがいいかもしれない。

科学室、物理室、地学室、数学室… およそ夏休みの部活では使われないだろう教室の前を陽菜は、姿勢を低くして走る。

普通に立つと、窓から見えてしまう。

下から見えないように窓から離れても、向かい合った普通教室棟の廊下からは見えるだろう。

中央の渡り廊下に来た。

ここにも階段がある。

ここから降りようか?そっとのぞく。

踊り場から下側に、数人の生徒が座っている。

ブラスバンド部の練習…というより雑談だ。

「そういうのは、音楽室でやって」
階段から見上げられないように、渡り廊下側を走り抜けた。

なんとか建物の東側までこれた。

あとは階段をおりていけば、玄関がある。

静かに、けれど早足で、壁伝いに階段を降りる。

2階はなんとか大丈夫だった。

そして、1階へ。

踊り場でしゃがみこみ、玄関の様子をそっと伺う。

誰もいない。

しかし、外に数人の生徒の姿を見かけた。

踊り場から下の階段は、外から丸見えだ。


陽菜は、美沙樹たちの虐めが、2年生になって酷さをましたように感じていた。

1年生の頃は使い走りであったり、同級生の前でスカートをめくられたり、安直な虐めだったはずだ。

それが徐々に、性的なものに変わってきている。

1年の時は膝より少し上ぐらいの丈だったスカートも、強引に改造され、股下数センチしかない。

短パンをはいていても、脚が見られることに恥ずかしがっていると知ると、今度は短パンをはくことも禁止された。

こっそりはいてきても、朝から待ち伏せされ、剥ぎ取られる。

3人の前で全裸にされたのは、ゴールデンウイーク明けだ。

最初は全裸に向かれただけですんだが、数日後には、さまざまなポーズを強要され、それを写メに撮られた。

夏休み前にはついに、陰毛を剃られた。

両脚を由香里と綾奈に押さえられ、美沙樹が丁寧に剃っていく。

「陰毛硬い」とか「つるつるにしたら赤ちゃんみたい」と散々笑われ、誰にも見せたくない部分をすべて確認された。


そしてついに今日は、全裸で学校の中を走らされる羽目になった。

自分ひとり、どうしてこんな目にあうのか。

幾度となく考え、答えの出せない疑問。

それを思うと涙が溢れそうになる。

だが、ここで泣いて、もたもたしていられない。

練習が休憩に入れば、外の生徒たちも水飲みやトイレのために玄関にきてしまう。

陽菜は、思い切って階段を駆け下りた。

誰にも気づかれず、シューズロッカーの陰に飛び込めた。

気づかれなかったのか、気づかれたことに自分が気づかなかったのか、そんなことはどうでもいい。

とにかく玄関まで来た。

玄関も当然ガラス張りに近いから、角度によっては外から見えてしまう。

真正面が正門だから、敷地の外を歩く人に見つかるかもしれない。

自分のロッカーを開ける。

「あった…」
美沙樹たちは、約束を守ってくれた。

安堵が生まれる。

「なに、陽菜、こんなところで全裸になってるの?」
わざとらしい大声が、玄関で響いた。

美沙樹が、先回りしていたのだ。

「いやぁっ」
陽菜はシューズロッカーの陰から飛び出る。

そとにいた数人の生徒たちと目が合う。

とっさに顔を隠す。

自分が誰か、ばれたくなかった。

両手で顔を隠し、乳房も股間もお尻もさらしながら、階段を駆け上がる。

2階で1年生の女の子ふたりとすれ違った。

小さな悲鳴。

かまってられない。

3階。

普通教室の廊下を駆け抜ける。

胸もお尻も、まるでここに恥ずかしい部分がありますよ、と自己主張するかのように激しく揺れる。

息が切れる。

でも、立ち止まれない。

開いたままのドアの前を通過した。

男子生徒の歓声。

声が背中にぶつかる。

「陽菜ちゃん、何してんのー」
クラスメイトだ。

女の子の笑い声まで聞こえる。

きっと廊下に出て、陽菜の後姿を見てるに違いない。

陽菜は、泣きながら階段を駆け上がった。

4階を越えたところで、転んだ。

むき出しのすねを、階段の角で打った。

それでも、駆け上がった。

用具室に辿り着く。

「どうしたの、そんなに息切らして?」
「もしかして、校内、全裸で走り回って、欲情しちゃったとか?」
由香里と綾奈の声もかまわず、用具室に飛び込む。

鍵を差し込むと、フタはちゃんと開いた。

服を取り出す。

「??」
下着がない。

ブラもショーツも。

しかも、ベストまで。

「そんな…」
ブラウスは薄い黄色だったが、当然透けるだろう。

スカートは、強制的に短く改造され、ちょっとした動きや風で下着が見える丈になっている。

「これで、帰るの…」
全裸のまま、わずかな衣服を抱きしめ、陽菜はその場にへたり込んだ。

「どうしたの、陽菜」
「はやく一緒に帰ろう」
「待ってるからね」
美沙樹たちの楽しげな声が、廊下から聞こえた。


【 完 】