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4泊5日の修学旅行。

1泊目の夜、部屋の仲間数人と喋っている内に消灯時間。

俺の部屋の仲間はまじめな奴ばかりなので、明かりを消してボソボソと話しをしていると、生活指導の体育教師が合鍵を使って入ってきた。

「ごめんな、ちょっと調べるぞ」と明かりをつけて部屋の人数を数え、トイレと押入を開けたあと「よっしゃぁ、合格!」と出ていった。

「何じゃこりゃ」と思っていると廊下から教師の罵声と男女生徒の声。

翌朝聞いてみると、男女生徒が同じ部屋で喋っていたり、カップルで勝手に空き部屋を使っていた者などが全員捕まり、ロビーで2時間正座させられたとのこと。


俺は、彼女の真美のことが心配になった。

昨夜は、半数近くの生徒が正座させられたというではないか。

真美とはつきあい始めて1年ちょっと。

小柄で、そんなに美人というわけではないが、かわいいのとまじめなのが取り柄。

俺も真美も進学志望なので、まだキスとか、服の上から体を触る位のつきあいしかないが、自分のために時間を割いてくれて、自分のことを想ってくれる人がいるだけで、気持ちに張りが出る。

休日のデートは、図書館で勉強してから映画や買い物など、「高校生らしく」過ごしている。

(双方の家に遊びに行くなど、親も認めているので、却って変なことはできない。

合格するまでは・・・)

2日目もバスで連れ回されたあとはおみやげタイム。

生徒がみやげ物屋にあふれている。

そこで真美と話をすることがてきた。

昨晩のことを聞くと、真美の部屋に男子が入ろうとしたところを、生活指導のババアに捕まって連れて行かれたそうだ。

俺もセーフだったと言い、お互いほっとする。


「ねえ、二人きりで話とかしたいね」「ダメだよ。

先生、今夜も巡回するって言っていたよ」
「ここまで厳しくされると、逆に逢いたくならない?・・」
そう、今こうやって二人でいるだけでも、通りがかった友人たちが冷やかしていくので、落ち着いて話せない。

(当時、携帯電話は高校生の持つものではなかった)
真美は、意外な作戦を考えてくれた。


翌朝5時、まだ薄暗い時間。

俺はロビーに降りると・・
トレパン姿の真美が座って待っていた。

「ほらね、誰もいないでしょ」
玄関の外では、従業員が外を掃いていて「おはようございます、行ってらっしゃいませ」と声を掛けられ、妙に照れくさい。

旅館が見えなくなると手をつないで、歩いて3分ほどの湖畔に着いた。

朝もやが湖を覆っており、幻想的で美しい。


俺は、真美を抱きしめた。

真美も俺の胸に顔を埋めている。

さらさらとした髪が指にまとわりつき、手のひらで感じる背中の感触が柔らかくて温かくて、自分の彼女とふれあっていることを実感できる。


「ねえ、ケンジ?」
「ん?」
「せっかく二人きりになれたのに、ジャージじゃ全然ムードがないね」
「仕方ないよ」
「やっぱり、綺麗な景色の前では自分の好きな服、着たかったな・・」

と、真美が顔を上に向けて目をつぶった。

俺は優しく唇を合わせる。

ひんやりと、ぬるっとした感触。

真美が鼻で呼吸するのが間近で聞こえる。

真美を抱きしめながら、しばらく唇を合わせた。

そこに、人が近づいてくる気配がしたので、あわてて唇を離すと
「おうっ、おはようっ」と男性の大声がした。

振り向くと・・・

生活指導の体育教師だった。

朝のジョギングをしていたらしい。

俺たちは呆然と教師を見つめた。

「おい、挨拶は?」
「せ、先生、おはようございます」

真美の顔が真っ青になり、俺の後ろに隠れて震えている。

「何も怖がらなくてもいいじゃんか。

俺は生活指導ではなく、ジョギングしていただけなんだから」体育教師はにこにこしている。

「・・・・」
「ケンジ、真美。

上手いこと考えたな。

朝のデートなんて。

俺こういうの気に入ったよ。

朝飯までには宿に戻れよ」

そう言うと、手を振りながら朝もやの中に消えていった。


「よかったね、怒られなくて」「うん」
俺たちは手をつないだまま少し話をして、旅館に戻った。


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数年後。

「ケンジ、起きて」俺は、真美に揺り起こされた。

朝の5時前てある。

「何だよ、まだ眠いのに」
「ちょっと散歩行こうよ」真美はお気に入りのドレスを着ていて、気合も充分。

俺も着替えを急ぎ、ホテルを出て数分歩くと・・。


「まあ、ホテルの人が言うとおり、朝もやが綺麗ね・・。

あの時の事を思い出すわ・・・先生、どうしているのかなぁ」
俺たちは、ハネムーン先である緑豊かなカナダの湖畔で、いつまでも湖を眺めていた。
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