1
M樹とのことを書いてみたいと思います。

M樹と会ったのはアルバイト先、もう6年も前のことになります。

M樹は俺の2歳年上で、少々勝気な子です。

でも仕事上では俺の方が上で、彼女は一応部下みたいなもの。

会話が少ないのは、俺の記憶が薄れているのと、脚色できるだけの妄想力がないこと、そして何より会話が少ないことがM樹とのやりとりで特徴的だったからです。


当時、M樹には彼氏がいて、俺にも彼女がいました。

M樹の彼氏は優柔不断なやつらしく、シーズンスポーツ関係の仕事が夢なのはいいんだけど、その仕事がない時期のこととかを考えないそうで、その辺りがM樹は不満らしく、いつもプリプリ怒ってた。

でも俺は、M樹が怒っているのは彼氏のことが嫌いなんじゃなくて、まだそいつのことが好きだからだと勝手に思ってた。


M樹は一般的に言って美人だとか、可愛い子というわけでもない。

でも身長は高くてスラっとした感じ。

運動好きなので引き締まってる。
一方で、すごく勝気で、会話では常に突っ込み役にまわる。

でも、同時にすごく人懐っこいし、みんなから愛されるキャラだった。


お互い付き合ってる人がいたから、当時は付き合うなんて対象ではなかったけど、今考えると、何かきっかけがあれば、いつでも好きになったと思う。

実際、その後に好きになったのだが。


M樹は彼氏とシーズンスポーツの仕事で知り合ったせいで、アルバイトを半年で辞めた。

でも、そのシーズンが過ぎると、またバイトに戻ってきた。

バイトのみんなは、「よく戻ってきたね」って感じで歓迎ムードだったが、俺はなんだかそういうのが照れくさくて、特に喜んだ様子も見せずに、半年前と変わらない感じであしらって、M樹が帰ってきた日を過ごしてしまった。

M樹は裏で、「何なのよ、あれ」って言ってたみたいだけど、お互いに意識してたんだと思う。


程なくして俺がバイトを辞め、M樹とも会うことはなくなった。

でもバイトを辞めたことで、お互いの連絡先を初めて確認しあい、その後連絡をとりあった。

まあ基本的には友達としてだから、特に男女関係の話はなかった。

俺がバイトを辞めて、ちょっと離れた場所にいたのもあって、特に会おうという話にもならなかった。


しばらくして、そのバイト先で俺とM樹の双方に親しかったAさんという女性が、3人で飲もう誘ってきた。

Aさんとは飲んだことは何度かあったが、M樹とはそのときまで飲んだことはなかった。

俺は何も考えずにOKし、3人で渋谷で飲むことになった。


しかし当日、待ち合わせ場所に行くと、M樹しか来ていない。

(おかしいな、M樹が一番遅れるタイプなんだけど)と思ってM樹に話し掛けると、Aさんは来れなくなったと言う。

そのときは「そっか」と言って飲み屋に向かったが、今考えるとはめられていたんだと思う。


M樹と2人で入ったのは、堀ごたつの席もある和風居酒屋。

俺たちはこたつに並んで座った。

最初は近況を話し、彼女が彼と別れたことを聞いた。

まあ彼氏が適当で優柔不断なやつだったから、それは当然かなと思い、色々と話を聞いてやった。

その頃、俺は付き合っている子はいたものの、その子はその子ですごく精神的に不安定で、その子と付き合うのに疲れつつも別れられない、そんな感じだった。

同じような境遇同士ということで、お互いの愚痴話に花を咲かした。


でも冷静に考えると、一番大事なことが違っていた。

たぶん、あのときは酔ってたんだと思う。

M樹は彼氏とは終わってて、俺はまだ終わらす決心すらついていないこと。

M樹はAさんを使って俺にアプローチしようと考えていて、俺はそんなことは全く考えていなかったこと。


しばらくして終電間近になって、俺は時計をちらちら見始めた。

彼女は何にも言わないので、俺から、「終電やばくない?」と言おうとしたら、彼女の足が掘ごたつの中で俺の足に絡まりついてきた。


俺は止まった。

正確には、俺の頭は止まってなかった。

むしろ瞬時に、何が起きたのか、彼女は何をしたいのか、どうして今日は2人で会うことになったのか、彼女が俺のことをどう思っているか、その他のそれまでの色んな行動が全てがわかった気がした。

俺も自分の今までの行動が彼女を意識したものだと、そのときわかった。

直感的に、(今日は帰れない)と思った。


彼女の顔を確認することもなく、そのままの姿勢で話し続けた。

特に話題も変わらない。

でも完全にそれ以前とは違った状況になったのをお互い気付いていたとは思う。


そのまま終電の時間が過ぎた。

何事もなかったかのように2人で店を出る。

宮益坂の方の交差点からハチ公口の交差点へと歩き、そのガード下に差し掛かったところで、どちらからともなく、ごく自然に手が当たり、手を繋いだ。

それからすぐに足が止まった。

並んで座ってたせいでお互いの視線を確認していなかったのだが、ほぼ初めてじっと見つめあった。

気付いたらキスをしていた。

渋谷のガード下、人がひっきりなしに往来するのも構わず、お互いの舌を貪りあった。

サラリーマンから冷やかしの声を受けても全然気にならなかった。


俺はM樹を抱くことをいまだに避けようと、もう1軒飲み屋に誘ったが、結局抱かずに帰ることはできなかった。

入った飲み屋ではお互いの顔すらまともに見れず、1時間もしないうちに出ることになった。

言葉では確認しなかったけど、2人とも気持ちは同じだっただろう。

完全にスイッチが入ってしまっていたと思う。

土曜の夜、ほとんど満室のラブホテル街へと向かった。


やっと1軒のホテルに入ることができたとき、もう何も躊躇うことはなかった。

部屋に入ると同時にキスをした。

お互い舌を絡め合って気持ちを確認しあう。

コートをお互いに脱がせつつ、ベッドに転がり込む。

冬だったので、お互い手は冷たかったけど、気にする余裕はなかった。


夢中で体を貪る。

いつもよりも愛撫は強い。

普通の状況なら、「痛い」って言われるくらいだったと思うけど、あの時はそれでちょうどよかった。

M樹は俺の肩を噛み、背中に爪を立てた。

痛くなかった。

いや、痛みが痛みじゃないみたいで、正直気持ちよかった。


何もしていないのに彼女のあそこは濡れ、俺のも限界に近かった。

フェラもなく、胸やあそこへの愛撫もほとんどなく、服を着たまま挿入した。

お互い顔を一瞬見合わせたけど、何も言わずに背中に手を回し、ぎゅっとくっついた。

そのまま激しく動くと、数分して程なく射精感。

興奮しきっているから、そんなにもたないようだった。

彼女も軽く何度かイッてしまったようだった。

何度か小刻みに締め付けられる。

そのせいで俺が少しゆっくりペースを緩めようとすると、「いいよ、来て」と彼女が言った。

飲み屋を出てからほぼ初めての会話。


M樹の足が俺の足にまた絡まっている。

俺はペースを緩めずに動き、そのままM樹の中に出した。

俺の体がビクンビクンいってて、すごい量が出ているのがわかる。

M樹もその間中、ぎゅっと抱きついている。

俺の動きが止まっても背中に回した手を緩めない。

そのまましばらくすると、また俺のが大きくなったが、動かさずに繋がっている感触を確かめていた。

長時間かけてゆっくり動かして、お互いの感触を確かめあった。

2回目の最後は、1時間くらいして彼女が腰を少しだけ動かしたときだった。

急に射精感が高まり、今度はゆっくりとした深い射精。

どちらからともなく離れ、抱き合いながらそのまま寝てしまった。


朝起きても特段変わったことはなかった。

飯を食って、昨日のことには触れずに会話。

でも別れる直前、彼女は俺にこう聞いた。

これが唯一のまともな会話だった思う。


「彼女とは別れるよね?」

俺は答えられなかった。

そのことを忘れていたわけではない。

でも精神的に不安定な彼女を捨てるとは、嘘でも言えなかった。

M樹と付き合えたらどんなにいいだろうと思ったけど、何にも言えなかった。

優柔不断だったのはM樹の彼氏だけでなく、俺もだった。

無言の時間が続き、M樹は「わかった」と言い、帰って行った。


結局、最初の飲み屋でかけ違えていたボタンは、最後まで掛け違えたままだったのだと思う。

M樹の足が俺の足に絡まったとき、その後の無言の時間は、相手が何も言わなくても相手の考えていることがわかっていた。

少なくとも、わかっていたつもりだった。

でも、きっと一番深いところでは違ってたんだと思う。

それは俺のせいだ。


それ以来、M樹とは会っていない。

ちゃんと付き合えてればよかったと今でも思います。

サンプル